カーボンニュートラル、脱炭素社会、、、炭酸ガス(CO2)は今や悪の中枢というイメージがついています。しかし、あくまでも、過剰が悪いというだけで、存在そのものを否定するものではない、よいうことをわかってほしいです。農家は、炭酸ガスがなかったら生きてゆけないのです。
参考文献:最新農業技術 果樹 vol.9
炭酸ガス濃度と光合成
6CO2 + 12H2O -> C6H12O6 + 6O2 + 6H2O
光合成の公式です。この反応に使われるエネルギーは光であり、材料はCO2、炭酸ガスです。
炭酸ガスを同化して、グルコースと酸素を生成し、私たちはこのグルコースと酸素から生きるエネルギーを作り出しています。
つまり、植物の光合成生産によるグルコースがあるからこそ、地球上の生物の生命は保証されていると言えます。
あなたが今日食べたご飯は、大気中のCO2から作られているのです。
炭酸ガス濃度が高いほど光合成は促進される
下の図は、炭酸ガス濃度を色々変えた際のブドウの光合成の関係を示したものです。
光の強さと光合成の関係に似ていて、いずれの炭酸ガス濃度でも光が強くなるにつれて光合成が盛んになることは同じです。重視すべきは、同じ光の強さでは、炭酸ガス濃度が高いほど光合成速度が大きくなることです。
また、興味深いのは、光合成速度の立ち上がりに注目すると、炭酸ガス濃度が高いほど、光補償点(排出する酸素と、吸収する 二酸化炭素との出入りが完全に釣り合うときの光の強さ)が低くなって、光が弱くても光合成を多く行うことができる点です。
炭酸ガスは、光合成にこんなにも大きな影響を与えるのです。
有機物の施用と人の息
果樹園に堆肥を敷き詰めると果実の収量が良くなるという例がたくさん報告されています。
その原因は、主に肥料養分の効果にあるとも言われますが、園内の炭酸ガス濃度が高くなる(微生物による有機物の分解によって炭酸ガスが発生する)ことも要因の一つとも言われています。
また、果樹園の入り口付近は良い果実ができる、という話もよく聞きます。果樹がよく観察され、手入れが行き届くからとも言われますが、果樹園に足を運ぶ人が吐き出す炭酸ガスの影響もあると考える人もいます。健康な大人は1日にビールの大瓶900本分の炭酸ガスを吐き出すと言われています。先のデータが示すように、光合成量は、炭酸ガス濃度に超敏感なので、あながち迷信とも言い切れません。
必要性も理解して、正しく怖がる
農家のために、CO2をどんどん排出してほしい!とはもちろん言いません。
農作物に対して、過剰なCO2がもたらす副作用のデータはまだ十分じゃないはずで、通年通して多ければイイとも言えず、思わぬ副作用もあるはずですし。
炭酸ガスの自然な収支を保つことが大事なのであって、ゼロにすればイイというものではないのです。今は収支のバランスが崩れて、排出が過剰になっているわけで、地球全体でバランスを保つ方向にヨリ戻す努力が必要なのだと思います。
自分にできること、それは私生活では化石燃料の使いすぎに気をつけ、仕事では頻繁に畑を巡回して、自分の吐くCO2はブドウに吸収してもらうことだと思っています。
物質生産とブドウへの分配 Material production and distribution to grapes