寒い冬の間、ブドウはただ寝ているわけではありません。寒さに耐えつつ、春に向けた準備も着々と進めています。
参考文献:最新農業技術果樹 vol.8
休眠と耐寒性の増強
冬に入って低温が続くと、その影響で枝梢中のデンプンが糖へ転換し、糖含量が著しく増加します。これは厳冬期への備えであって、枝や芽の細胞内で顆粒状のの不用物として存在していたデンプンが水に可溶性の糖に変わることにより細胞液の濃度が高まって、凝固点降下によって低温になっても凍りにくくなります。このように植物が寒さを感じて一時的に糖の濃度を高めることはブドウに限らず、多くの木本性植物で認められる現象で、ハードニング(耐寒性増強)と呼ばれています。
根中における栄養代謝
樹の休眠中は地温も低く、目立った根の伸長もありません。しかし、この時期の根の一部を切り取って適度の温度と湿度を保った培地上で培養すると、新しい根が正常に生長します。したがって、根には自発休眠が存在しないと考えられています。
鉢植えのデラウエア樹に対する窒素の施用期を1月から3月まで変えた実験によると、施用期の遅い区ほど新梢の初期成長が劣り、花穂の発育も不良になります。この場合、根中の窒素含量は早期に与えた区ほど早くから高まっており、発育期の根中のアミノ酸が多く、糖が少ない。つまり休眠中でも窒素を吸収し、これを貯蔵養分である糖と結びつけてアミノ酸を合成し、春の新梢成長に使うのです。
土壌中に窒素が十分にあっても、根の吸収力が不十分であれば意味がありません。例えば、地温の低すぎ、冬季中土壌の著しい乾燥、細根の量的不足などによる初期生長の不良は実際によく見られることです。
冬の間、静かに眠って活動していないように見える樹たちですが、ひっそりとではありませが生命活動を続けて、春の芽生えに向けてしっかりと準備を進めているのですね。冬の彼等にも気を配り、雪の前に施肥をしたり、土壌の乾燥を防いだりしてあげることが生産者の仕事です。
ブドウの休眠と休眠覚醒 Dormancy and awakening of grapes