シャインマスカットの特徴を簡単にまとめると、
「欧州ブドウの食味を持ちながらも、耐病性がかなり強くて栽培しやすく、種無し栽培ができる大粒の黄緑色品種」
と要約できるそうです。
この品種がどのような目標で品種改良を進めた結果生まれたのか、生産者として正しく知っておきたいと思います。
参考文献:最新農業技術果樹 vol.7
欧州ブドウと米国ブドウ
現在流通しているブドウは、大きく分けて、欧州ブドウと米国ブドウに分けられます。
欧州ブドウ
ブドウ栽培のルーツはヨーロッパ。カスピ海南岸原産の品種が多く、崩壊性(噛み切りやすい)を持ち、硬い肉質で、マスカット香を持つ。
欧州ブドウはもともと降雨の少ない原産地の気候に適しているため、日本のような雨の多い地域では、病害、裂果が多発して栽培が難しい。
米国ブドウ
17世紀になって、欧州からアメリカ大陸に人々が移住し、欧州ブドウも一緒に海を渡りますが、米国南部は雨が多すぎる、北部は寒すぎる、という環境に適用できず、欧州ブドウの栽培は失敗します。
そこで、北米原産品種と欧州ブドウの交雑によって多くの品種が育成され、これらが米国ブドウとなります。
栽培面では、病害抵抗性、耐寒性が強く、裂果しずらい。一方、噛み切りにくい肉質(塊状)で、皮が裂けやすく、日持ちが悪く脱粒しやすいという特徴を持ちます。
巨峰ピオーネの登場
日本では、明治になりまず欧州ブドウが入ってきましたが、乾燥した欧州原産の品種は高温多雨の日本では栽培は難しく、最初に広く栽培されたのは、デラウエアなどの米国系品種。
その後、日本国内で品種改良が進み、米国ブドウに欧州品種を掛け合わせて、巨峰やピオーネが誕生します。
肉質は、欧州系に近づいてはいるが、崩壊性と塊状の中間で、米国ブドウの特徴のフォクシー香を持ちます。耐病性は、デラウエアには劣りますが、農薬の発展もあり、安定栽培に成功。市場にも受け入れられ、巨峰の時代が続きます。
品質と栽培性の両立
巨峰は欧州ブドウと米国ブドウのいいとこ取りをして受け入れられてきましたが、米国ブドウの肉質と香り(フォクシー香)を好む消費者のニーズには応えていましたが、欧州ブドウの香りを持つブドウのを望む声も国内には強くありました。巨峰の生産も消費需要の飽和状態に達し、新しい品種が待望されるようになります。
これらの市場ニーズに加え、栽培しやすさも加え、新品種への要求事項は、
- 巨峰より噛み切りやすい
- マスカット香をもつ
- 大粒で種無し、皮まで食べられる
- 耐病性が強く、裂果しにくい
- 短梢剪定栽培ができて、花穂整形、摘粒の労力が少ない
これらを目標に品種改良が進められ、数々の選抜の末、2003年にシャインマスカットが誕生しました。
欧州系と米国系のいいとこ取りをし、美味しくて育てやすい、日本生まれの品種です。
美味しいのはもちろんのこと、栽培しやすいって言うところも、ここまでシャインマスカットがブドウ界のスターになった理由だと思います。ブドウ栽培は、本当に手間がかかります。栽培しやすくて既存圃場への親和性も高たったことも成功の鍵だったと思います。
品種改良エンジニアへの感謝を噛み締めて
しっかりと市場調査をした上での、見事なマーケットイン。加えて生産性のことも考えた、地に足のついた品種改良。これはシャインマスカットが売れるのも納得です。
果樹の品種改良はすごく時間がかかります。交雑の評価に一世代(概ね一年)かかるわけで、工業製品と違って圧倒的に時間がかかります。コツコツと地道に改良を進めていただいた日本の試験場のエンジアの方々に頭が下がります。
莫大な苦労の上で生まれたシャインマスカット。素晴らしい遺伝子を受け取って、それを生かして美味しいブドウに育てるのは私達生産者の仕事です。高品質栽培を追求して、ブランド力の維持向上ができるよう、農家はコツコツ地道に栽培に励みます。
ブドウの王様 巨峰 Kyoho, King of Grapes
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