参考文献:果樹園芸学の基礎/伴野潔/山田寿/平智
アミノ酸の蓄積
果実に含まれる遊離アミノ酸(アミノ酸)は,果実独特のうま味や風味に深く関連している。アミノ酸は果実発育の後半,とくに成熟によって急激に蓄積することが,ブドウやモモなどで報告されている。
果実の香り
果実に独特の香りをもたらす香気成分は,未熟なうちはごく微量であるが成熟にともなって盛んに生成されるようになる。香気成分は,アルコール類,エステル類,テルペン類などの揮発性成分がおもなものであるが成分の種類や多少,バランスが芳香を左右する。
温室栽培の高級ブドウとして有名な‘マスカット・オブ・アレキサンドリア’の香気成分について少し詳しくみよう。発育中の果汁の揮発性成分を経時的にガスクロマトグラフィーで分析したのが下図である。おもな成分として5種類のテルペン化合物が検出されたが,ゲラニオールは果実の発育にともなって生成量が徐々に増え,リナロールは成熟期以降急激に増えている。これらの成分が複雑に交じり合うことで,独特の芳香がつくられていると考えられる。
果実の渋味
未熟な果実には強烈な渋味があるものも少なくないが,普通は成熟によつて消失する。ただし,渋ガキのように成熟期になっても強烈な渋味がある果実もある。
渋味の原因物質は,タンニン(tannin)と総称される高分子ポリフェノール化合物で,プロアントシアニジン(proanthocyanidin)が重合してできた高分子の縮合型タンニン(condensed tannin)と,比較的低分子の加水分解型タンニン(hydrolyzable tannin) がある。カキやモモなど多くの果実のタンニンは前者であるが,キイチゴ類は後者である。
タンニンの濃度は未熟な果実で高い。たとえばモモの未熟果には0.3%程度含まれているが発育にともなって減り,成熟期にはほぼなくなる。ただし,第3期に極端に土壌が乾燥したり台木の種類によって,成熟果にも強い渋味が残って問題になることがある。
甘ガキと渋ガキ
甘ガキでも渋ガキでも,未熟果には多くのタンニン(可溶性タンニン,soluble tannin)が含まれている。カキのタンニンは,タンニン細胞という特殊な細胞に高濃度で蓄積する。甘ガキでは果実の発育とともに希釈されて減り成熟期までになくなるが、渋ガキでは成熟しても1%程度含まれ,強い渋味がある。
甘ガキには,種子の有無にかかわらず渋味がなくなる完全甘ガキと,種子がある個数以上できないと渋味が完全になくならない不完全甘ガキがある。完全甘ガキのタンニンは,果実の発育の比較的早い時期に生成が止まり,その後は果実内で希釈されて成熟時には渋味がほぼなくなる。
それに対して渋ガキは,第2期の終わりころまでタンニンの生成が続き,渋味がなくなるまで希釈されないので,成熟しても強烈に渋い。
寒冷地で完全甘ガキを栽培すると,タンニンが完全に消失しきらず成熟しても渋味が残ることがあり,完全甘ガキの経済栽培の北限を決定するおもな要因になっている。