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果樹の遺伝子組み換え Genetic engineering of fruit

参考文献:果樹園芸学の基礎/伴野潔/山田寿/平智

果樹と遺伝子組換え育種

交雑育種では.目的とする遺伝形質以外の不必要な形質まで取り込まれることが多いため,育種効率があがりにくい。これに対し,遺伝子組換えば対象植物の特性を変えることなく目的の形質のみを導入したり,植物以外の遺伝子でも導入することができとくに雑種性が強く育種期間の長い果樹では新しい育種法として期待されている。
果樹の遺伝子組換えでは,土壌細菌のアグロバクテリウムのプラスミドを用いて遺伝子を導入する,アグロバクテリウム法が一般に用いられる。

アグロバクテリウム法とは

上棋咲Ht社のアグロバクテリウムは,細胞内に自己複製できるプラスミドとよばれる環状DNAを持ち,植物ホルモンや非タンパク態アミノ酸のオパインなどの合成遺伝子を含むT-DNA領域を植物の染色体に組み込んで,毛根病や根頭がんしゅ病などを発生させる。
植物の遺伝子組換えは,アグロバクテリウムのベクター(vector)としての性質を利用して,T-DNAを植物の染色体に導入して行なう。遺伝子組換えに利用されるアグロバクテリウムには,毛根病菌(Agrobacterium rhizogenes) のRiプラスミドと根頭がんしゅ病菌(A. tumefaciens)のTiプラスミドが用いられる。

果樹園芸学の基礎/伴野潔/山田寿/平智 より引用

バイナリーベクター法の開発

近年,目的の外来遺伝子を導入する方法として,操作が簡便なバイナリーベクター法(binary vector)が開発され,一般的に用いられている。この方法は,T-DNA領域をあらかじめ取り除いたアグロバクテリウム(A. tumefaciens)に感染に必要なvir領域を取り除いて外来遺伝子を導入したプラスミドを再導入する方法である。果樹でも,この方法による形質転換体(transformant)が多数つくられている。
このように多くの果樹で遺伝子組み変え植物が作られているが、実用化には、遺伝子組み換え作物の安全性評価や社会的受容性(public acceptance)も含め検討すべき課題も多い。

果樹園芸学の基礎/伴野潔/山田寿/平智 より引用
果樹園芸学の基礎/伴野潔/山田寿/平智 より引用

遺伝子組み換え作物の安全性評価

遺伝子組換え作物の開発と利用には,世界各国でほぽ共通した安全基準が設けられ,この基準を満たさなければ商品化できないように規制されている。わが国でも開発から商品化の各過程で,作物の特性や安全性を調査・評価するシステムが確立されている。
最初の実験段階では,「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物多様性の確保に関する法律(カルタへナ法)」にもとづきベクターとして使用されるアグロバクテリウムによる汚染や,組換え植物の花粉などが戸外へ飛散しないよう,閉鎖系の実験室や温室で,目的遺伝子の発現と安定性,生育特性,花粉稔性などが調査される。その後通常の温室で,従来の植物との成分の比較や花粉の飛散などの評価がされる。
次の実用化のための研究段階では農林水産省の「農林水産分野等における組換え体の利用のための指針」をもとに,隔離圃場での他の生物相への影響や雑草化などの環境に対する安全性評価がされ,その後一般圃場で実用化作物として特性評価が行なわれる。最終的に食品としての安全性は,厚生省の安全性評価の指針にもとづき食品としての栄養成分の比較導入タンパク質の発現と安定性,アレルギー性や発癌性についての評価がされ,この段階で安全性が確認された作物のみが実用化に移される。

農学部というところ School of Agricultural Sciences

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