参考文献:果樹園芸学の基礎/伴野潔/山田寿/平智
果色の変化
未熟な果実の果皮にはクロロフィル色素が含まれ緑色をしていることが多いが,成熟がすすむにつれて分解し,果実特有の色素が蓄積してくる。
たとえばリンゴやプドウプルーベリーtントょどの赤や紫色の果実にはアシアニン色素,カンキツやカキなどのオレンジや黄色の果実にはカロテノイド類の色素が生成・蓄積する。
なお,果実が綺麗に着色するためには,クロロフィルの分解がとどこおりなく行らない。ともに,各種色素の生成と蓄積がスムーズにすすまなければならない。
果色変化の仕組み
このように,クロロフィルの分解と赤色や黄色をした色素の生成は,同時並行的におこることが多い。しかし,バナナでは,黄色のカロテノイド色素は未熟なうちから含まれており,成熟にともなって増えることはほとんどない。緑色のクロロフィルが分解することによって,黄色く色づいたようにみえるのである。セイヨウナシの一部の品種でも,収穫後の追熟過程でクロロフィルの分解がおこり,もともと含まれていたアントシアニンによって果皮が鮮やかな赤色に変化するものがある。
プドウやスモモの一部の品種やキウイフルーツなどのように成熟しても果皮や果肉にかなりの量のクロロフィルが残るものもある。
果色に影響する要因
果色の変化に最も大きく影響する環境要因は温度である。クロロフィルの分解は高温で抑制されるため,熱帯地方産のカンキツ類には成熟しても緑色をしているものが多い。また,カロテノイド,アントシアニンの生成に適した温度は比較的低く15〜20℃程度で,30℃以上では生成が顕著に抑制される。そのため,成熟期の気温が高い暖地では,ブドウやリンゴの着色が不良になることがある。
アントシアニンの生成には光条件も深くかかわっている。リンゴやオウトウの着色には,可視光線ではとくに赤色光が有効であるが,より効果的なのは紫外域の光である。赤色光と紫外線が同時に照射されると,アントシアニンの生成が著しく促進される。
果肉の軟化
果実の成熟にともなって果肉が軟化する。細胞壁は多糖類,タンパク質リグーーンなどでつくられているが,果肉の軟化はおもにペクチンやヘミセルロース,セルロースなどの多糖類が,量的あるいは質的変化することによっておこる。つまり,ヘミセルロースの分解やペクチンの水溶化(水溶性ペクチンの増加)によって軟化がすすむと考えられている。
多くの果実は,このように成熟にともなって徐々に軟らかくなるがプドウのように第2期の終わりごろに急に軟化して(ベレーゾン, veraison),果粒への急激な糖の蓄積や果皮の着色が始まるものもある。